引っ越し先が決まり、退去日のめどが立ってきたら、次に気になるのが「今の部屋の解約通知を、いつまでに、どうやって出せばいいのか」ではないでしょうか。契約書には「解約は1ヶ月前までに」「2ヶ月前までに」など、物件によって異なる予告期間が書かれていますが、その根拠や数え方まで意識したことがある方は少ないと思います。この記事では、解約予告に関する法律の原則ルール、契約書の特約との関係、そして「1ヶ月前」を実際にどう数えるかを、契約書を手元に置きながら確認できる形で整理します。
この記事の要点
- 民法617条・618条は、借主が解約を申し入れた日から3ヶ月の経過で契約が終了する、というデフォルトルールを定めていますが、実務上は多くの契約書がこれと異なる「1ヶ月前」「2ヶ月前」等の予告期間を特約で定めており、契約書の記載が優先されます。
- 「1ヶ月前までに通知」の起算点は、通知を出した日ではなく、貸主・管理会社に通知が到達した日が原則です(民法97条1項の到達主義)。
- 予告期間を守れずに退去日を早めても、多くの契約書では予告期間相当分の家賃を支払うことで解約できる仕組みになっているため、まず自分の契約書の中途解約条項を確認することが出発点になります。
賃貸借の解約予告期間を決める3層構造
「解約はいつまでに言えばいいのか」を考えるとき、実は3つの層が重なっています。①民法が定める原則ルール(契約書に定めがない場合に適用される)、②実際にあなたが取り交わした契約書の特約、そして参考情報として③国土交通省が示す標準的なひな形(法的効力はなく、自分の契約書と比べるための物差し)です。効力の優先順序は②→①で、②に記載がない部分は①のデフォルトルールに戻ります。ただし②に何が書いてあっても常に有効というわけではなく、借地借家法などの強行規定に反して借主に不利な特約は無効になります(詳しくは後述します)。まずこの構造を押さえておくと、契約書の読み方が整理しやすくなります。
原則ルール:民法617条・618条の「3ヶ月前」
民法617条1項は、期間の定めのない賃貸借について、各当事者はいつでも解約の申入れができ、建物の賃貸借であれば解約申入れの日から3ヶ月を経過することで契約が終了すると定めています(土地の賃貸借は1年、動産・貸席の賃貸借は1日)。さらに618条は、期間の定めがある賃貸借であっても、当事者の一方または双方が期間内に解約する権利を留保していた場合には617条の規定を準用すると定めています。つまり、2年契約などの期間の定めがある賃貸借契約であっても、契約書に「借主は期間内に中途解約できる」という条項(中途解約権の留保)があれば、617条の原則ルールが適用される構造になっています。
注意: 617条・618条は、契約書に特約がない場合に適用される「デフォルトルール」です。契約書の中途解約条項に「1ヶ月前までに通知する」といった記載があれば、そちらが優先され、3ヶ月前まで待つ必要はありません。まず確認すべきは、法律の原則ではなく自分の契約書の条項です。
なぜ実務では「1ヶ月前」「2ヶ月前」が主流なのか
617条・618条が定める3ヶ月という期間は、借地借家法のように借主保護のために当事者の合意で変更できない「強行規定」ではありません。契約自由の原則の範囲内で、当事者が合意すれば異なる期間を定めることができます。実務上は、国土交通省の賃貸住宅標準契約書が「30日前」を採用していることもあり、この3ヶ月より短い「1ヶ月前」「2ヶ月前」等の予告期間を中途解約条項(特約)で定めている契約書が多く見られます(ただし2ヶ月前・3ヶ月前とする契約書もあるため、必ず自分の契約書で確認してください)。
参考として、国土交通省が公表している「賃貸住宅標準契約書」(平成30年3月版。法令上の使用義務はない任意のひな形で、家賃債務保証業者型・連帯保証人型とも同一文言)の第11条(乙からの解約)は、次のような構成になっています。
第11条 乙(借主)は、甲(貸主)に対して少なくとも30日前に解約の申入れを行うことにより、本契約を解約することができる。 2 前項の規定にかかわらず、乙は、解約申入れの日から30日分の賃料(本契約の解約後の賃料相当額を含む。)を甲に支払うことにより、解約申入れの日から起算して30日を経過する日までの間、随時に本契約を解約することができる。
このように、標準契約書は「30日前の予告」と「予告なしでも30日分の家賃を払えば即日解約できる」という2つの選択肢を用意する構成になっています。実際の契約書がこの型に近いのか、それとも「2ヶ月前」「違約金あり」など異なる設計なのかは、契約ごとに異なります。
注意: 借主に有利な方向(3ヶ月より短い期間)へ予告期間を変更する特約は、契約自由の範囲内として原則有効と考えられます。一方で、貸主側が予告期間を不当に長く設定して借主に過大な負担を課している場合は消費者契約法10条の観点で、短期解約違約金のように「違約金・損害賠償額の予定」として定められた金銭条項については消費者契約法9条1項1号(事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分は無効)の観点で、それぞれ有効性が問題になることがあります。特約全体の有効性の考え方は賃貸契約書の特約はどこまで有効?消費者契約法10条の判断基準で解説しています。
貸主側から契約を終わらせる場合は別ルール
ここまでは借主から解約する場合の話です。逆に貸主側が契約を終わらせたい場合は、借主側よりはるかに厳しいルールになります。2年契約など期間の定めがある普通借家契約では、貸主は期間の途中で一方的に解約することは原則できず、契約を終わらせるには借地借家法26条1項に基づき「期間満了の1年前から6ヶ月前までの間」に更新拒絶の通知をしたうえで、28条の「正当事由」(貸主・借主双方が建物の使用を必要とする事情、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び現況、立退料等の財産上の給付の申出という4つの事情を総合的に考慮して判断される要件)が認められる必要があります。期間の定めのない契約や、貸主が中途解約権を留保している契約では27条が適用され、解約申入れの日から6ヶ月の経過で契約は終了しますが、この場合も28条の正当事由が必要です。借主からの解約より貸主からの解約の方がはるかにハードルが高いのは、借地借家法が借主の居住の安定を保護する目的を持つためです。もし貸主から「契約を終わらせたい」「更新しない」と言われた場合は、この記事で扱う借主側の1ヶ月前ルールをそのまま当てはめず、通知の時期(1年前〜6ヶ月前の範囲に収まっているか)を確認したうえで、別途専門窓口に相談することをおすすめします。
「1ヶ月前」はいつから数える?到達主義と計算方法
契約書の予告期間の日数が分かっても、「いつを起点に数えるか」を誤解すると、予告期間が不足してしまうことがあります。
一般に、解約通知のような意思表示は、相手に到達した時点で効力が生じるとされています(民法97条1項、いわゆる到達主義)。「到達」とは、相手が実際に読んだ時点である必要はなく、郵便受けに投函されるなど相手の支配下に置かれた状態(了知可能な状態)になれば足りると解されています(最高裁昭和36年4月20日第一小法廷判決・民集15巻4号774頁)。つまり、契約書に特段の定めがない限り、通知を投函・送信した日ではなく、貸主や管理会社に届いた日を起点に予告期間を数えるのが基本的な考え方です。
注意: 発信主義ではなく到達主義であることは、意外と見落とされがちです。普通郵便だけで送ると「いつ届いたか」を後から証明しにくいため、配達記録が残る方法(レターパックプラス、簡易書留、配達証明付き内容証明郵便など)や、管理会社の窓口で受領印・受付印をもらう方法で提出しておくと、期日をめぐる水掛け論を避けやすくなります。
期間の数え方自体は、民法140条(期間の初日は算入しない原則)・143条2項(週・月・年による期間は、起算日に応当する日の前日に満了する。ただし最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する)の考え方が基礎になります。実務的な例で言うと、3月15日に解約通知が貸主に到達した場合、民法140条により初日は算入しないので起算日は3月16日、143条2項により起算日に応当する日(4月16日)の前日である4月15日の終了をもって1ヶ月が満了します。ただし契約書に「解約申入れの日から起算して30日」のように「起算して」と書かれている場合は初日を算入する趣旨と読まれるため、原則より1日早く満了することがあります(前述の標準契約書第11条2項がこの書き方です)。また「退去希望日の1ヶ月前までに通知を到達させる」という逆算型の条項であっても、考え方の基本は到達日から順算することに変わりはなく、契約書に別段の定めがあればそれに従います。たとえば「退去希望日の1ヶ月前までに通知」という条項で4月30日に退去したい場合、3月30日に通知が到達すれば、民法140条により初日不算入で起算日は3月31日となり、143条2項ただし書(最後の月に応当する日がないときはその月の末日に満了する)により、4月31日という応当日は存在しないため4月30日の終了をもって1ヶ月が満了します。なお3月31日に到達した場合も、起算日は4月1日、応当日5月1日の前日である4月30日の終了をもって1ヶ月が満了します(民法140条・143条2項)。このように月末付近では到達日が1日違っても満了日が同じになることがあります。
要確認: 「退去希望日の1ヶ月前までに」のような逆算型の条項については、民法に到達日から遡って起算する場合の明文規定がなく、解釈が分かれ得ます。実際の満了日・退去日を自己判断だけで確定させず、管理会社に書面(メールでも構いません)で確認しておくことをおすすめします。
1日のずれが1ヶ月分の家賃負担につながることもあるため、日付が際どい場合は管理会社に「この通知でいつ契約終了になるか」を書面で確認してください。自分の契約書がどちらの型になっているかを、実際の条文で確認することが重要です。
自己診断:自分の契約はどのパターンにあたるか
ここまでの内容を、自分の契約書に当てはめてみましょう。まずは契約書の「解約」「中途解約」といった見出しの条項を探し、下の表と照らし合わせてください。
| 契約書・状況のパターン | 適用される可能性が高いルール | 確認すべきこと |
|---|---|---|
| 中途解約条項に「◯日前/◯ヶ月前までに書面で通知」と具体的な日数が明記されている | その特約の日数が優先される(契約自由の原則) | 日数、通知方法(書面・メール等の指定)、宛先(貸主か管理会社か) |
| 中途解約権を留保する条項はあるが、予告期間の日数が明記されていない | 民法618条により617条が準用され、原則3ヶ月前 | 特約書・重要事項説明書も含めて日数の記載が本当にないか再確認 |
| 期間の定めのない賃貸借契約(まれなケース) | 民法617条1項2号により3ヶ月前 | 契約書に契約期間の記載自体があるか |
| 契約書に中途解約に関する条項が一切ない(期間の定めあり) | 民法618条の解約権留保がないため、期間途中の一方的な解約は原則できず、貸主との合意解約の交渉になる。合意できない場合は残存期間の賃料負担が問題になりうる | 契約書・特約書・重要事項説明書の全文に中途解約の記載がないか再確認し、早い段階で管理会社に相談する |
| 定期借家契約(借地借家法38条) | 原則として中途解約は不可。床面積200平方メートル未満の居住用建物で、やむを得ない事情(転勤・療養・親族の介護等)によって「その建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったとき」に限り、38条7項により解約申入れから1ヶ月の経過で終了する特則がある | 契約書に「定期建物賃貸借」「中途解約特則」の記載があるか。詳しくは定期借家契約とは?普通借家との違いと「更新できない」リスク |
| 貸主から契約終了・更新拒絶を持ちかけられている | 期間の定めがある普通借家契約では借地借家法26条(更新拒絶通知は期間満了の1年前〜6ヶ月前まで)+28条(正当事由)、期間の定めのない契約等では27条(6ヶ月前)+28条(正当事由)が適用され、この記事の借主側ルールとは別の話 | 自分から出した通知の話なのか、貸主都合の話なのかを区別する |
注意: 定期借家契約の場合、通常の「1ヶ月前ルール」をそのまま当てはめると誤解につながります。中途解約特則がなければ期間途中の解約自体ができず、借地借家法38条7項の要件に該当するかどうかは個別の事情によって判断が分かれます(本記事の38条7項・8項の条番号は、令和3年法律第37号による改正〔令和4年5月18日施行〕後の条文構成によるものです)。
予告期間を守れなかった場合に起こること
引っ越しの都合上、契約書の予告期間より早く退去日を決めざるを得ないこともあります。この場合でも、多くの契約書は「予告期間を待たずに退去する場合、解約申入れの日から予告期間相当分の賃料(賃料相当額を含む)を支払うことで解約できる」という規定を置いています(前述の標準契約書第11条2項は「解約申入れの日から30日分の賃料」と定めており、通知後にすでに住んだ日数も含めた30日分という意味です)。つまり、退去日から改めて1ヶ月分が上乗せされるのではなく、通知日を起点に予告期間分の賃料を負担する設計が一般的です。ただし条項の書き方によって起点が異なるため、必ず自分の契約書の文言を確認してください。
注意: この「予告期間相当分の家賃」は、契約から1年未満での退去などに対して別途課される「短期解約違約金」とは、契約書上は別の条項であることが多い費用です。両者を混同すると、実際にいくら請求されるのかを見誤ります。契約書のどの条項が予告期間の話で、どの条項が違約金の話なのかを分けて確認してください。短期解約違約金の仕組みについては短期解約違約金とは?発生条件・相場・払わなくていいケースで詳しく解説しています。
逆に、通知を出し忘れたまま契約期間が満了した場合、普通借家契約では、貸主が期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に更新拒絶の通知をしていなければ、借地借家法26条1項により従前と同一の条件で契約が更新されたものとみなされます。ただし同項ただし書により、このとき契約期間は「定めがないもの」となるため、その後は契約書の中途解約条項(定めがなければ民法617条1項2号の3ヶ月)に従って随時解約を申し入れることができます。なお、契約書に自動更新特約がある場合は法定更新ではなく合意更新として扱われ、更新料が発生することがあるため、自分の契約書がどちらの仕組みかを確認してください。「もう住むつもりがないのに自動的に更新されてしまった」という事態を避けるためにも、退去日が固まった時点で早めに契約書の該当条項を確認しておくことをおすすめします。
判断に迷う場合は、次のセクションで紹介する窓口に相談してください。
行動:確認する書類・通知の出し方・相談窓口
確認する書類
- 賃貸借契約書:「解約」「中途解約」「乙からの解約」等の見出しの条項全文(日数、通知方法、予告期間を守らなかった場合の規定)
- 重要事項説明書(35条書面):契約の解除に関する事項の記載が契約書の内容と一致しているか
- 入居時に取り交わした特約書・覚書(中途解約に関する個別の合意があれば)
通知の出し方(一般的な例)
以下はあくまで一般的な進め方の一例です。契約書に所定の解約届の様式が指定されている場合は、必ずそちらに従ってください。
- 退去予定日と通知を出す日付を明記した書面を用意する(例:「〇年〇月〇日をもって本物件を解約し、明け渡します」といった趣旨)
- 契約書で指定された宛先(貸主本人か、管理を委託されている管理会社か)に提出する
- 到達日を証明しやすい方法(簡易書留、レターパックプラス、配達証明付き内容証明郵便、窓口での受領印付き控えなど)で提出する
- 提出した書面の控えを、退去完了まで保管しておく
判断に迷う場合の相談窓口
- 消費生活センター(消費者ホットライン188):契約条項の内容や対応に疑問がある場合、まず状況を整理する窓口として利用できます。
- 法テラス(日本司法支援センター):法的な見通しについて相談したい場合の窓口です。
- 各地の弁護士会の法律相談:契約条項の有効性など個別の法的判断が必要な場合は、弁護士への相談をおすすめします。
契約全般のトラブルでどの窓口を使えばよいか迷う場合は、賃貸トラブル、誰に相談すればいい?窓口の使い分けガイドも参考にしてください。
まとめ
賃貸借の解約予告期間は、民法617条・618条が「3ヶ月前」という原則ルールを定めているものの、実務上は多くの契約書がこれと異なる「1ヶ月前」「2ヶ月前」といった特約を置いており、優先されるのは自分の契約書の記載です。また、「1ヶ月前」の起算点は通知を出した日ではなく到達した日が原則である点、予告期間を守れない場合は家賃相当額の支払いで解約できる仕組みが一般的である点も、見落としやすいポイントです。引っ越し日が固まったら、まず契約書の中途解約条項を実際に読み、日数・起算点・通知方法の3点を確認することから始めてみてください。判断に迷う内容があれば、契約書一式を持って消費生活センターや弁護士などの専門窓口に相談することをおすすめします。