内見は、写真や間取り図だけでは分からない「実際の暮らしやすさ」を確かめる、契約前最後のチェックポイントです。とはいえ、限られた時間の中で何を見ればいいのか分からず、担当者の説明を聞いているうちに「なんとなく良さそう」で決めてしまった、という声も少なくありません。この記事では、部屋の中・共用部・周辺環境・契約条件という4つの観点から、内見で確認しておきたい25項目を整理しました。印刷して持参できるチェックリストとしても使える構成にしています。入居前の傷や汚れは写真で記録しておくと、退去時の原状回復費用を巡るトラブルを避けやすくなります(詳しくは原状回復ガイドラインを読み解く)。
内見前に準備しておきたいこと
内見当日は案内時間が限られていることが多く、その場で初めて気づいて確認し忘れる、ということが起こりがちです。事前に以下を準備しておくと、当日の確認がスムーズになります。
- 生活スタイルに合わせた確認項目のメモ(在宅ワークの有無、楽器・ペットの予定、洗濯物を干す時間帯など)
- スマートフォン(写真・動画撮影、電波状況の確認、家具の採寸アプリなど)
- メジャー(家具・家電のサイズ確認用)
- 現在使っている家具・家電のサイズを控えたメモ
ポイント: 内見時の写真・動画撮影は、多くの場合、事前に一声かければ撮影できます。「入居後に傷を見つけたとき、いつからあったか分からない」という状況を避けるためにも、気になる箇所はその場で記録しておきましょう。
部屋の中で確認したい項目(1〜12)
まずは室内です。パンフレットの写真では伝わりにくい部分を中心に見ていきます。
| # | 項目 | 確認のポイント |
|---|---|---|
| 1 | 日当たり・方角 | 内見の時間帯によって印象が変わるため、可能なら朝・昼・夕方の違いを担当者に確認する |
| 2 | 収納の広さ・数 | クローゼットや押入れの奥行き・高さを確認し、手持ちの荷物量と照らし合わせる |
| 3 | 水回り(キッチン) | シンクの広さ、コンロの口数、換気扇の状態、水圧 |
| 4 | 水回り(浴室・洗面) | 追い焚き機能の有無、換気窓や換気扇、カビ・水垢の有無 |
| 5 | トイレ | ウォシュレットの有無、換気、収納スペース |
| 6 | コンセントの位置・数 | 各部屋に何口あるか、テレビ・冷蔵庫・洗濯機置き場付近の位置 |
| 7 | 携帯電波の入り方 | 自分が契約しているキャリアの電波状況を室内で実際に確認する |
| 8 | インターネット環境 | 対応回線の種類、無料インターネットの有無と実際の速度(口コミ等で要確認) |
| 9 | 音の伝わり方 | 隣室・上階の生活音がどの程度聞こえるか、窓を閉めた状態と開けた状態で確認する。建物構造(木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造)も担当者に確認する。壁を叩いた音だけで遮音性能を判断することはできないため、構造と実際の聞こえ方の両方で確かめる |
| 10 | 窓・サッシの状態 | 開閉のしやすさ、結露やカビの跡、鍵の種類 |
| 11 | 建具・床・壁の傷や汚れ | 入居前からある傷・汚れは写真に残し、可能であれば現況確認書等への記載を依頼する |
| 12 | エアコン・給湯器の年式・動作 | 設置年数の目安と、実際に動かして異音・効きの悪さがないか確認する |
注意: 室内の傷や汚れ、設備の不具合は「気づいた時点」で記録・申告しておくことが重要です。民法621条(2020年4月1日施行)は、通常の使用による損耗と経年変化を借主の原状回復義務の範囲から除外しており、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(平成23年8月)も、通常損耗・経年変化分は原則として貸主負担という考え方を示しています。ただしこのガイドラインは法令ではなく行政の指針であり、これに反する契約が自動的に無効になるわけではありません。契約書に原状回復やクリーニングに関する特約がある場合、内容によっては借主負担とされることもあります。また、入居前からの傷か入居後についたものかが不明確だと、退去時に話がこじれやすくなります。国民生活センターも、賃貸住宅の原状回復・敷金トラブルを継続して注意喚起の対象としています。
建物・共用部で確認したい項目(13〜18)
自分の部屋だけでなく、建物全体の管理状態も暮らしやすさに直結します。
| # | 項目 | 確認のポイント |
|---|---|---|
| 13 | エントランス・共用廊下の清掃状態 | ゴミの放置や照明切れがないか、管理の行き届き方の目安になる |
| 14 | 郵便受け・宅配ボックスの有無 | 施錠の有無、宅配ボックスの数と空き状況 |
| 15 | ゴミ置き場の管理状態 | 収集ルール、24時間出せるか、清潔に保たれているか |
| 16 | 駐輪場・駐車場の空き状況 | 利用可否、空き待ちの有無、追加費用の有無 |
| 17 | オートロック・防犯カメラ等の防犯設備 | 設置の有無と実際に動作しているか |
| 18 | 掲示板の管理会社・貸主(分譲賃貸の場合は管理組合)からのお知らせ | 過去のトラブル(漏水・害虫等)に関する掲示がないか |
周辺環境で確認したい項目(19〜22)
周辺環境は、平日の昼間に一度内見しただけでは分かりにくい部分です。可能であれば時間帯や曜日を変えて自分の足で歩いてみることをおすすめします。
| # | 項目 | 確認のポイント |
|---|---|---|
| 19 | 最寄り駅・バス停までの実際の所要時間 | 地図上の距離ではなく、信号待ちや坂道を含めた実測時間 |
| 20 | 周辺の生活利便施設 | スーパー・コンビニ・病院・ドラッグストアの位置と営業時間 |
| 21 | 夜間・休日の周辺の様子 | 街灯の明るさ、人通り、騒がしい店舗や施設の有無 |
| 22 | 近隣の建築・再開発予定 | 将来的に日当たりや眺望が変わる可能性がないか、担当者に確認する |
豆知識: 昼間の内見だけでは、夜間の街灯の少なさや、休日の生活音(子どもの声、車の出入りなど)までは分かりにくいものです。気になるエリアであれば、内見とは別に時間帯を変えて自分で歩いてみる、というのも一つの方法です。
契約条件に関わる質問項目(23〜25)
ここからは部屋の状態そのものよりも、契約条件に関わる質問です。内見の場では現地の担当者がその場で即答できないこともあるため、聞いた内容は後日書面(重要事項説明書や契約書)でも必ず確認しましょう。
| # | 項目 | 確認のポイント |
|---|---|---|
| 23 | ペット・楽器・喫煙等のルール | 契約書・特約でどこまで制限されているか、口頭説明と書面の内容が一致しているか |
| 24 | 更新料・更新事務手数料の有無と金額 | 契約書・重要事項説明書に明記されているか、金額の根拠を確認する(詳しくは更新料は払わないといけない?) |
| 25 | 解約予告期間(解約する何ヶ月前までに通知が必要か) | 法律上のデフォルトは民法617条の「3ヶ月前」ですが、多くの契約書では特約で異なる期間を定めており、その場合は契約書の記載が優先されます。国土交通省の賃貸住宅標準契約書は借主からの解約を「30日前の申入れ」としています。実務では1〜2ヶ月前とする契約が多く見られますが、法定の基準ではないため必ず契約書の中途解約条項を確認する(詳しくは賃貸の解約通知はいつまでに出す?) |
注意: 更新料や解約予告期間、原状回復に関する特約は、内見担当者の口頭説明だけで判断せず、重要事項説明書(35条書面)や契約書の記載を必ず確認してください。宅地建物取引業法35条により、契約締結前に宅地建物取引士が記名した書面(重要事項説明書)を交付して説明することが義務付けられています。2022年5月18日施行の改正で宅建士の押印義務は廃止され、借主の承諾を得た場合は電磁的方法(PDF等の電子交付)で提供することもできます。紙での交付を希望する場合は、その旨を伝えれば書面で受け取れます。書面で聞くべき質問の一覧は重要事項説明(35条書面)で本当に聞くべき質問リスト、電子交付の仕組みはIT重説・電子契約は安全?にまとめています。
自己診断:自分のケースではどこを重点的に見るべきか
内見で見るべき項目の優先順位は、生活スタイルによって変わります。当てはまるものがないか確認してみてください。
- 在宅ワークが多い方: インターネット回線の速度実測、日中の周辺の生活音、コンセントの位置(デスク周り)を重点的に確認する。
- 小さな子どもがいる、または今後予定がある方: 床の防音性能、隣接する部屋の音の伝わり方、共用部の管理状態(ベビーカーの置き場所等)を確認する。
- 楽器を演奏する、ペットを飼っている(飼う予定がある)方: 契約書・特約での可否と条件、防音性能を必ず書面で確認する。契約後に「実は不可だった」ことが判明すると、原状回復や解約時のトラブルに発展しやすい項目です。
- 転勤・単身赴任等で内見に時間をかけられない方: オンライン内見を依頼できないか相談し、水回り・コンセント位置・電波状況は動画で細部まで見せてもらう。
- 初めての一人暮らしの方: 全項目を一度に確認しようとせず、まずは「水回り」「収納」「音」「電波」の4項目から重点的に見る。分からない専門用語(特約、原状回復、更新料など)はその場で質問して構いません。
ポイント: 内見は「気に入ったかどうか」だけでなく「暮らしてみて困りそうな点がないか」を確かめる場です。全項目を完璧にチェックできなくても、生活スタイル上ゆずれない項目だけは必ず確認しておくと、後悔を減らせます。
内見で確認した内容を、契約前にどう活かすか
内見でチェックした内容は、それだけで終わらせず、その後の重要事項説明・契約書の確認につなげることが大切です。
確認する書類
契約前に自分の目で確認できるのは、原則として重要事項説明書と、事前提示を依頼した契約書案です。
- 重要事項説明書(35条書面): 設備の整備状況、契約期間・更新に関する事項、用途その他の利用の制限、契約の解除に関する事項、敷金等の精算に関する事項などが記載されます。個別の特約が記載されているかは契約により異なります。
- 賃貸借契約書(実務上、宅建業法37条書面を兼ねます): 更新料・解約予告期間・原状回復に関する特約など、実際の契約条件が記載されます。ただし37条書面は法律上「契約成立後、遅滞なく」交付されるものです(宅地建物取引業法37条)。サインの前に条件を確認するには、契約書の案(ドラフト)を事前に見せてもらえないか申し出るか、重要事項説明の場で該当条項を読み上げてもらいましょう。
- 現況確認書・入居時チェックシート: 入居前の傷・汚れを記録する書面です。用意されていない場合は、自分で撮影した写真・動画を保存しておきましょう。
気になる点を伝える際の言い方(一般的な例)
以下は、内見や重要事項説明の際に使われる一般的な聞き方の例です。個別の状況によって適切な伝え方は異なるため、あくまで参考としてご覧ください。
- 「このキズは入居前からあったものとして、記録を残していただけますか」
- 「更新料の金額について、契約書のどこに記載がありますか」
- 「解約予告期間は何ヶ月前までに、どのような方法で連絡すればよいですか」
注意: 宅地建物取引業者や仲介担当者は、契約条件や制度の一般的な説明はできますが、報酬を得る目的で個別の法律事件について断定的な法的判断を示したり、貸主との交渉を代理したりすることは弁護士法72条(昭和24年法律第205号)により行えません。契約内容に納得できない、あるいは不利な特約ではないかと感じた場合は、契約前に消費生活センター(消費者ホットライン188)や、お住まいの自治体の住宅相談窓口へ相談することも選択肢です。どの窓口に相談すればよいか迷う場合は、賃貸トラブル、誰に相談すればいい?窓口の使い分けガイドも参考にしてください。
内見からのステップ全体を再確認したい場合
内見はあくまで契約前チェックの一部です。申込・審査・重要事項説明・契約という一連の流れの中で確認すべきポイント全体を確認したい場合は、賃貸借契約で失敗しないために、契約前に確認すべき10のチェックポイントも合わせてご覧ください。
まとめ
内見は、部屋の中だけでなく、共用部・周辺環境・契約条件まで含めて確認することで、入居後の「こんなはずではなかった」を減らせる機会です。すべての項目を一度に完璧にチェックすることは難しくても、自分の生活スタイルで譲れない項目を優先的に確認し、気になった点はその場で写真や記録を残しておくことをおすすめします。契約条件に関わる部分は、内見担当者の説明だけで判断せず、重要事項説明書や契約書の記載を必ず自分の目で確認してください。